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東京高等裁判所 平成4年(ネ)1656号 判決 1992年8月27日

控訴人 有限会社 ヤハギランド(旧商号)有限会社禄健商事

右代表者代表取締役 矢作喜久安

右訴訟代理人弁護士 西垣義明

被控訴人 有限会社 榎本工務店

右代表者代表取締役 榎本録之助

右訴訟代理人弁護士 高橋良喜

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「一 原判決を取り消す。二 控訴人と被控訴人間の浦和地方裁判所昭和六〇年(ヨ)第二四二号不動産仮差押命令申請事件につき、同裁判所が同年四月一八日にした仮差押決定を認可する。三 本件仮差押命令取消申立を却下する。四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、以下のとおり、当審において主張を補足するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「二 事案の概要」及び「三 争点及びこれに対する判断 1」に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目表一一行目「昭和六三一月一九日」とあるのを「昭和六三年一月一九日」と訂正する。)。

(控訴人)

原判決は、前訴において被保全債権が存在しないとする本案訴訟の判決が確定し、その存在の根拠を失ったとして本件仮差押決定を取り消している。しかし、前訴は、求償先は榎本晴好であって、被控訴人ではないとして形式的に棄却されたもので、被保全債権の存否について実質的な審理をされたものではない。控訴人は、別訴において、被控訴人に対し前訴と同一の求償金を請求し、前訴の主張以外に予備的主張をし、平成四年三月二三日、「被控訴人は控訴人に対し、金一七八五万円及びこれに対する平成二年一二月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。」との判決がなされ、現在控訴審に係属中であるから、被保全債権も存在し、保全の必要性もある。

三 《証拠関係省略》

理由

一  当裁判所も、本件仮差押えの本案訴訟において、被保全権利(本件では被控訴人に対する求償金請求権)の存在を否定する判決が確定した以上、改正前の民訴法七四七条一項にいう「事情ノ恋更シタルトキ」に該当し、本件仮差押決定は取消を免れないものと判断するが、その理由は、当審における控訴人の主張に対応して、以下のとおり補足するほか、原判決の「三 争点及びこれに対する判断2ないし5」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  《証拠省略》によれば、別訴の主位的請求原因は、被控訴人が三井銀行わらび支店から合計金一八〇〇万円を借り受け、これを保証した控訴人が昭和六〇年四月五日同銀行に対し元利金一八三八万一九一七円を代位弁済したことにより、右代位弁済額と同額の求償金の支払を求めるというものであり、予備的請求原因は、右銀行から合計金一八〇〇万円を借り受けたのは榎本晴好であり、控訴人はこれを保証したところ、榎本晴好は即日右金員を被控訴人に貸し渡した、控訴人は主位的請求原因記載のとおり右銀行に代位弁済した、榎本晴好は昭和五九年一〇月三一日死亡したため、控訴人は榎本晴好の相続人である榎本録之助及び同きよに対し、右代位弁済額と同額の求償債権をその相続分に応じて取得したが、右相続人らは無資力であるため、同人らが被控訴人に対して有する榎本晴好から相続した前記貸付金返還請求権を代位行使する、というものである。右別訴につき、第一審裁判所は、主位的請求については前訴(本案訴訟)の訴訟物と同一であり、既判力に触れ訴えの利益を欠くものとして棄却し、予備的請求については、榎本晴好が被控訴人に貸し付けた金額は合計金一七八五万円としたが、その余の事実を認め、被控訴人に対し、平成四年三月二三日、「被控訴人は控訴人に対し、金一七八五万円及びこれに対する平成二年一二月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え」との判決を言い渡したこと、同事件は現在控訴審で審理中であることが認められる。

2  しかしながら、原判決が「三 争点及びこれに対する判断 2」で説示するとおり、本案訴訟が確定してしまった以上は、保全処分の被保全権利と本案訴訟の請求権の関係も特定し、当該保全処分を他の権利の保全のために維持することは許されないと解すべきであり、この理は、本案訴訟確定後に本案訴訟と請求の基礎を同一とする別訴が提起された場合でも異ならない。けだし、このような場合にまで別訴のために当該保全処分を維持できると解するときは、保全処分決定に対し種々の取消原因を設けて当初の債務者の劣位を補おうとする法の趣旨が没却され、本案訴訟において訴えの変更がなし得たにもかかわらず、これをしなかった債権者に比し、債務者を甚だしく不利益かつ不安定な地位に置くものだからである。

本件についてこれをみると、控訴人が右別訴の主位的請求原因で求める権利は、控訴人が前訴(本案訴訟)で求めた権利と同一であることが明らかなところ、右権利は前示のとおり本案訴訟で既に不存在であることが確定しているのであるから、例え右別訴が現在控訴審に係属中であるとしても、本件仮差押えを右別訴主位的請求原因で求める権利のために維持することが許されないことは明らかである。また、別訴の予備的請求原因に基づく請求についても、前訴(本案訴訟)の請求と請求の基礎が仮に同一であると解する余地があり、前示のとおり、これにつき控訴人一部勝訴の判決がなされたとしても、前訴の本案訴訟で求めた権利と右予備的請求原因で求める権利は別個のものであるから、前訴の本案訴訟が確定した以上これと別個である右別訴で求める権利のために本件仮差押えを維持することは許されないものと解される。

二  よって、本件仮差押決定を取り消した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 大坪丘 福島節男)

<以下省略>

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